頭が痛くて起きられない
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中背で華奢な体格です。小1の頃から登校渋りがあり、
中1の2学期からは学校へ行けていませんでした。
父も母も夏実の不登校を心配して、なんとか行かせようと躍起ですが、効果はあがっていません。
朝起こそうとして言葉を浴びせますが、夏実は頭痛などの身体症状を訴えて布団に潜り込んだままです。
やがて親はあきらめて、夏実をなじりながらも仕事に出かけます。
夏実は静かになると布団から出てきて、ひがな一日を漫然と過ごします。
そんな毎日が続いて、不登校状態が慢性化している様子がうかがえました。
ガチンコ勝負の覚悟!?
このような場合、登校を無理強いせず、子どもの登校エネルギーが蓄積されるのを待ちましょう...という方針が比較的よくとられます。しかし、この両親にはそんな精神的なゆとりはなく、とにかく夏実が登校しないことには安心できない様子でした。
それならそれで、両親にはできる範囲のことをやってもらう覚悟を求めます。
援助者側も登校に向けたガチンコ勝負をする覚悟を決める必要があります。
そして、肝心の夏実がガチンコ勝負をすることができそうな子かどうか見立てる必要があります。
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別にいやなことはないよ
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プレイルームでトランポリンに乗りながら
夏実と会話をします。
〈学校へ行くといやなことあるの?〉→「ないよ」
〈勉強のことは気になる?〉 → 「別に」
〈頭痛は?〉 → 「あるよ、ときどき」
〈学校へは?〉 → 「そのうち行くと思うよ」
〈予定は?〉 → 「わからない...。ああ、これ気持ちいいわ。ストレスが晴れるわ~」
と、トランポリンに身を投げ出しました。
やりとりは十分できます。それほどかたくなでもなく幼さが目立ちます。
成長していくプロセスのなかで、学校という社会集団に出ていく時につまづき、
そのまま十分なケアと後押しがされてこなかった印象です。
何かを超えたという体験をさせてあげたい、という気持ちになりました。
親子の対決ゲーム!
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その後、この家族とのやりとりはいろいろありましたが、ここでは家庭訪問で行った「学校へ連れ出すゲーム」を紹介します。
ゲームという形を借りて親が子どもと対決する方法で、悪循環におちいった親子のやりとりを修正することができます。
〈部屋で寝ている夏実ちゃんを両親で起こし、家の前に置いてある車に乗せるゲームをやります。5回やります。
夏実ちゃんは、できるだけ車に乗らないように、いつもの朝のように抵抗すること。
両親は、たたくなどの暴力は反則ですが、それ以外のどんな方法でもいいから夏実ちゃんを車に乗せるように頑張ってください〉
第1回戦
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布団に潜り込み、ゲーム開始。
両親が声をかけ起こしにかかりました。
1回目。母がなかなか迫力のある演技を始めました。
母「夏実、朝やで!起きなよ、学校へ行くで!」
夏実「ふあぁ、いやよ」
母「何言うてるの、起きな!遅れるで!」
夏実「...うるさいなあ、いやよ」
母「起きなあかん、ほら!」
父は、母の後ろで「ほら起きぃよ」と
小声で言う程度です。援助者が、
父にもっと頑張るようにハッパをかけます。
そのうち、夏実は「もぉ、うるさいなあ」と言って
自分から起き上がり車に乗りました。
拍手を贈り、うまくできたことを賞賛します。
父母の協力
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夏実は「はい、はい」と面倒臭そうにいいながら
布団をかぶりました。
父も幾分、真剣になりましたが、夏実があっさりと
「起きればいいんでしょ」と車まで行ってしまいました。
一応、拍手です。
3回目。夏実の抵抗をあげるため、女性援助者が夏実を押さえます。
父が布団をはがして夏実の手を引っ張り、母が「起きなさい!」と強くいいます。
援助者の押さえをはずすように夏実が笑いながら起きていきました。まあまあ拍手です。
4回目。母が「制服に着替えなさい!」といい出しました。
ところが、父が「そこまでせんでも...」
と緊張を下げ、結局、着替えずに車まで行きました。
ちょっと残念拍手です。
5回目。今度は母が譲らず、制服に着替えさせました。
夏実はいわれるままに袖を通しました。
父も手伝い、見守り、車に乗りました。
両親の協力ぶりに拍手です。
夏実、別室登校開始!
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学校の教室へ行きました。久しぶりの教室です。
担任や養護教師が笑顔で夏実を出迎えました。
夏実も笑顔を見せました。
こうした家族の力を結集させた後押し体験は、
教師にも影響を与えました。フォローさえすれば
少々無理して頑張らせてもいいのだという考えで
皆が一致し、やがて親や教師に後押しされて
夏実は別室登校を始めました。
*このケースは、
衣斐哲臣著「子ども相談・資源活用のワザ」(金剛出版)
の第12章で、より詳しく紹介しています。
監修:臨床心理士 衣斐哲臣