動き回る!ものを壊す!他の子を叩く!
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ガチンコ事例その2「小6、拓弥の場合」をご紹介します。
これまでの人とのかかわりのなかで、
いつのまにか身につけてきた悪ふざけや好ましいとは言えない
対人関係パターンに対するチャレンジです。
そして、それに代わって、新たな楽しいかかわりを
体験させてあげたいという願いを込めます。
小学6年生の拓弥は、軽度の知的障害をもち、
学校では特別支援学級に入っています。
母につれられて相談にやってきました。
体格は6年生とは思えないほど立派ですが、
逆に、顔つきやしぐさは年齢よりも幼く子どもっぽく見えました。
相談の内容は、調子に乗ると落ち着きなく動き回る、
授業中もじっとしていない、ものを壊す、ふざけて他の子を叩く、
家では3つ下の弟に対ししつこく意地悪をする等があり、
なんとかそれを治したいというものでした。
医師からは、ADHD(注意欠陥・多動性障害)と診断を受け、
服薬もしていました。
ハイテンション
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隠れたり逃げ回ったりしていました。
でも、職員の顔色を見て怒られそうにないと察知すると、
今度は面接室からエスケープし、建物を探索するように勝手に動き回り、
徐々にハイテンションになっていきました。
母は、そんな拓弥を止めようと注意しますが、
半分あきらめているようで、叱り方は無表情で淡泊です。
拓弥は一瞬だけ母の顔を見ますが、意に介さずはしゃいでいます。
そんな一人遊びを身につけてしまっているようです。
「すみません。いつもこんなんなんです」と、母はため息混じりに言いました。
拓弥の家族は、母と弟と拓弥の3人です。
両親は2年前に離婚し、母が子どもを引き取りました。
拓弥にとって、父は厳しく恐い存在でした。
そのこともあって、母は離婚後にも、拓弥のことだけは父に相談し、
父も叱り役を引き受けていました。
雷鳴とどろく
母は、以前に受けたことがある知能検査を希望しました。私は、知能検査の後、プレイルームで拓弥の遊び方を
見せてもらいたいと提案しました。
母と離れ、拓弥と2人で知能検査を行いました。
やはり落ち着きはなく、おふざけモードです。
再三、集中するように促す必要がありました。
徐々に、検査と無関係な発言や粗暴な行動が増え、
明らかにおふざけを楽しんでいるようです。
最初はそれにもつきあいながら、検査を続けました。
拓弥は一応、指示に従いますが何度も、
「プレイルームで遊ぶ!」を連呼しました。
〈終わったら遊ぶから、あと少し頑張ろうね〉
と言いながら続けました。
そして、検査用具を放り投げる等、
拓弥の行動がエスカレートしました。
そのとき、思わず
〈もう少しなんだから、ちゃんとするときはしろよ!!〉と、
大きな声で叱責しました。
私自身がびっくりするほど思わず出た大きな声でした。
逃げた!
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数秒間体が凍りつきました。
〈拓弥君、終わったら、
遊ぶって約束したんだから、もう少し頑張れよ!〉と、
今度は少し声を落として言いました。
とたんに、拓弥は物も言わず部屋を飛び出て、
別室にいた母のもとへ行き、
「帰ろう!早く帰ろ!」と腕を引っ張ります。
「まだ、お話し中だから...」と母が言うと、
母のバッグから勝手に車の鍵を取り出し駐車場へ行って、
一人車の中に閉じこもってしまいました。
その行動には私も半ばびっくりしましたが、
別の男性職員に頼んで、拓弥の様子を見に行ってもらって、
部屋へ戻るように優しく伝えてもらいました。
遊ばないとあかん
拓弥は、「こわい!」と言いながらも、隠れるようにして戻ってきました。
私は、わざとぶっきらぼうに言いました。
〈こわいって? あなたが約束を守らないから、
こっちだって腹も立ってくるんだよ。
これが終わったら、遊ばないとあかんのやから、
ちゃんと真面目にやれよ!〉
拓弥は「いやや~」と言いながらも、
部屋に入り検査に取り組みました。
〈なにがいや~だよ、遊ばないとあかんのやから...、
はい、この迷路をやって...うん、そう、そう、そうだよ。...なんだ、拓弥君できるやないか! はい、つぎはこれ!〉
遊ばないといけないから...、というのも変な理屈です。
それに、こんな乱暴な口調の指示で知能検査を実施したのは、
私も初めてです。
でも、口調は乱暴ですが、顔は穏やかです...、そのつもりです。
拓弥もそれに乗って頑張りました。
15分後、ともかく無事やり終えました。
ルールを守る
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じゃあ、プレイルームに遊びに行くぞ!〉
「おわり? やった!!」と万歳をして、
満面笑みで移動しました。
その後、プレイルームでのルール
(あとかたづけと時間を守ること)を説明しました。
「わかった!」とうれしそうに言いながら、
拓弥は私と一緒にテンション高く遊びました。
もちろん、ルールは守りました。
その後の来所時には、
ルールを守るなかで遊ぶことが比較的できるようになり、
先のような暴走や乱暴はなくなりました。
家庭や学校での拓弥の行動が改善するためには、
その後しばらく時間の経過が必要でしたが、
だんだんと改善しました。
正しい行動に導く
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ガチンコは大きな声で叱ればいいというものではありません。
一人でおふざけや悪さやエスケープをしても、
本当は楽しいはずがありません。そんなことやめて、
もっとちゃんとした楽しいことを一緒にやろうよって伝えたくなります。
これまでのやり方にストップをかけ、正面から向き合い、
新たな楽しい体験をさせるためのガチンコ場面でした。
監修:臨床心理士 衣斐哲臣